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「それは最近の話じゃ。具体的にはスラィリーマスターが現れてから、つまり、ここ数年の話じゃの。それまではいくら獰猛なスラィリーといえども、
人間の目につくところへ現れることも滅多になかったし、スラィリー肉も広島の一部にしか出回らん幻の珍味での、全国的にはそんな食い物があることすら、ろくに知れておらんかったんじゃなかろうか、
じゃけぇ、元々稀少な品で、高級品ではあったが、今みたいにアホみたいな値がつくことものうて、
つまりスラィリーもハンターも肉の需要も少ない、狭い範囲に完結した話じゃったんよな。
それが、スラィリーマスターが山へ棲みつくようになってからというもの、スラィリーの目撃情報が爆発的に増えた。
当然、一人前まで長年の修練を必要とする従来のハンターだけでは駆除が追いつかん。
じゃけぇ、広島政府も危険じゃ言うことは判っとったんじゃが、猟期には大型の銃の使用を認めて全国から急造のハンターを募ろうとしたんよ、それがどういう結果を招いたか…、それは現場の人間が一番わかっとるじゃろ、ナー」
「ええ、確かに、銃に関する規制を緩めたことで、素人でもスラィリーを倒せる可能性が出てきました。しかし成功率は高いとは言えず、そのために発生する犠牲は毎年増えるばかり」
「こいつなんぞは折角鍛えた技があるっちゅうに、便乗して銃に頼り切ってラクしとる。まったく」
「いやあ、本気出すと疲れるもので」
「まあええ。とにかく、最近の研究では、『スラィリーにピロられた人間はやがてスラィリーになる』ちゅう民間伝承もおそらく正しいとか言われとる、そんならスラィリー自体の数も増加の一途じゃ。
しかし今更スラィリーハントを制限しようにも、これだけ需要が拡大して価格が高騰した今となってはの、法で禁じても密猟者が出るだけじゃろ。最早、あとには引けん。
もっとも、あの西宮が一向に広島へ攻めて来んのも、スラィリー増加のせいだとも言われとるが…」
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