006

「まあ、座ってくれ」
「あ、ああ」
薄い座布団をすすめる永川の声に、森野ははっと我に返った。
裸電球に照らされた室内は、薄汚れてはいるが、思いのほかしっかりとした生活感を演出しているように見える。
木造の粗末な外見から、おそらく猟期に滞在するためにしつらえた山小屋なのだろうと森野は推測していたが、
もしかすると永川は年中ここで暮らしているのかも知れない、と思わせる品も散在していた。
豚の蚊やり器。団扇。薪のストーブ。綿入れの半纏。等々。よく見れば、四季を充分にやり過ごせる設備が整っており、
それに加え、よく手入れされた神棚が、住人がここに定住していることを雄弁に物語っている。
一年中、こんな山の中で暮らしているのか。金はあるんだろうに、なぜそんなことを…、
突然の訪問者に対し、丁寧にも湯をわかして茶を淹れようと手を動かす永川の背中、灰色の毛皮のベストを眺めつつ、
森野はそんなことを詮索していた。
「そいつは茶を飲むのか?」
後ろを振り向かないまま、突然永川が尋ねる。
「飲む…、ときもある」
「そうか」
それなら、と言って永川は湯飲みを3つならべ、そこに茶を注ぎはじめた。


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