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同時、ほとんど反射的に前田は軍刀の柄に両手を掛けたが、しかし咄嗟に、先刻の想定とは異なる判断を下して、左手親指で鍔をガッチリと押さえた。刀身を鞘から抜き放つことなく、そのまま左腕を前へ出して柄頭で一発、鳩尾やそこらを打撃しようと考えたのだ。
その理由の一つには、単純に、いま、市街地での流血沙汰を避けたかったこと。そしてもう一つにはやはり、おそらく刀を抜くに値する相手ではない。それが大きく心に引っかかった。
請われるまま戦場を渡り歩いていることとは、あるいは矛盾するが…、決して、無闇に殺生がしたいわけではない。

意を決し、前田は左から背後へ振り向いた。視界に入ったのは、軍人などとは見紛うはずもない、薄ら汚れた少年だ。

「でぇやあぁああぁぁあああ!」

前田の予想したとおり、戦略も何もない、ただヤケクソと呼ぶに相応しい徒手空拳…、いや、正確には徒手ではなかった。錆びかけた鉄パイプのような棒を右手に持ち、それを高く振り上げている。
だが、予想に反していることもひとつあった。飛び掛ってくる、その高さが尋常でないのだ!
さしもの前田も、あっと声を上げそうになった。ガラ開きの胴は前田の目線よりもかなり上、柄で打てるのは辛うじて膝くらいだろう。それでは振り下ろされる鉄棒をまともに食らってしまう。

平時なら…、対処は決して難しくない。1歩、あるいは2歩ほど引けばいいだけだ。しかし今はそれができない。この右脚はおそらく、一瞬たりとも、身体を支えてはくれないだろう。文字どおり後には引けない。仕方がない…、


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