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正午を過ぎて早くも翳りはじめた山並みを背にして、山崎はまた坂を下っていく。いつしか市街が見えはじめる。昨日はじめて給料を貰った雑居ビル、時間外に駆け込んで開けてもらった布団屋。あれかたったの半日なのだ。半日前が遠い昔のように、その半日前の自分が別人のようにさえ感じる。

初めて稼いだ金で、などと言って突然プレゼントを贈ったりしたから、面倒な話がしにくくなってしまったのだろうか。
師匠はもともと面倒事は面倒がるタチではある。決して怠惰という訳ではないが…、自分から積極的に誰かを支えようとか、万人の痛み苦しみ悩みを取り除こうとか、そういう慈愛に溢れてはいない。要は普通の人である。

だが普通の人も一生に一度くらいは、何かわからぬ情熱に突き動かされ無心になることがある。前田にもそういうことがあった。その一度のファインプレーによって山崎の人生は大きく変わった、
絶望と死の淵から強引に掬い上げられると共に…、結果として、強固な運命共同体になってしまったのだ。


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