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二岡は多少、気の力をもっている。所沢の帆足に代表されるような、大気を揺るがし風を操る類の力だ。
もちろん、あの帆足ほどの凶悪な破壊力を持ちはしない。しかし風向きや空気の振動を読みとることには長けている。
特に、牛革でできた球状のものを風に乗せ、100メートルほど先の高台の縁へ運ぶことの正確さにかけては彼の右に出る者はない。

巨大な組織である文京軍では個人の能力と指揮官としての資質とは明確に区別されているため、気の能力者だから階級が高くなるというような人事は行われないが、
それでも、かつては空軍の一師団を任された男であり、つまりは超能力を別にしても、有力な人材であったのだ。
しかし自身にくだらぬ不始末があり、地位と名誉とを剥奪され、終には妻にも見放されてしまった。
現在はしがない事務職をつとめている。今後も軍にいるかぎり、書類と戯れ暮らす時間がただひたすらに続くだろう。

その彼が今、持ち場を離れてこうしているのには訳がある。彼は密命を受けたのだ。それも元帥たる渡辺恒雄から直々に。

いわく――、

「清水に疑わしい動きがないか」
「知りません」

突然に問われた二岡は咄嗟にそう答えた。清水とは同僚でも友人でもない。なぜ自分に訊くのか。


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