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「梅津てのは、俺の仕事仲間だった男で」

聞かれる前に、永川はそう説明した。実のところ、森野はその名について深く詮索する気はなかったが、永川が話し始めたので黙って聞いた。

「俺の次に優秀なハンターだった。つまり梵倉寺に関わりのない人間としては、一番の使い手だったてことだ」
「なるほどな」

普通はこうして暗に俺が一番優秀だという物言いはしないものだが、なんせ永川の場合は彼が一番ということが世間に広く知れ渡っているし、ましていまさら森野に向かって謙遜をしたところで意味もない。

「あんたに会わすかどうかは少し迷ったんだが…、やっぱり会ってもらいたい」
「そうか」
「…ここだ」

たどり着いた先は四階だった。薄暗い踊り場から見える廊下は窓の光でやや明るい。

「病室は変わってないね」

廊下に貼られた表を見て、貴哉が言った。永川がうなずく。東出は無言のままだ。

「この先ずっと変わらないかもな、容態が変われば、話は別だが…」
「…そうだね」
「一番奥の、右手の部屋だ。行こう」

永川は廊下の奥を指差すと、ゆっくりとまた歩きはじめた。廊下は狭く、大人4人が固まって歩くだけで圧迫感がある。
ほどなくして着いた病室は…、重そうな鉄製の扉が、しかし、開け放たれたままになっていた。永川はまたおもむろに口を開く。

「会ってもらいたいと言ったが、見てもらいたいと言ったほうが正しかったな」
「ちょっと、兄さん」
「事実だろ」

貴哉は咎めるように言ったが、永川は意に介さずぶっきらぼうに言い返し、脇に置かれた消毒液を無言で指差した。森野はそれを少量とって手指に擦り付ける。森野の終わるのを待って永川も同様にした。

「…ま、見ればわかる」

永川はそう言ったが、それがどういうことなのか、森野にも見る前から想像はついた。そういう状態の人間と対面するためのほんの僅かの覚悟を決めると、森野は永川の後について開け放たれたドアをくぐった…、
果たして、病室には先客がいた。


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