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どこか遠く屋根か何かが崩落する音、そこかしこから聞こえるうめき声、呪詛の叫びを聞くともなしに聞きながら、帆足は大きく煙を吐き出し、そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
空が飛べるなどというのは元から嘘だ。あんなものは、思い切りの悪い大沼を説得するための方便にすぎない。
当時の彼にできたことは、高いところからの滑空、局地的な暴風を巻き起こすこと、そして小さな真空波を起こしてサバイバルナイフ程度の殺傷力をもった手刀を操ることくらいだった。
自分で風を起こしながらさらにその風を捉まえて飛ぶことは、理論上は可能だが…、彼の生来もつ気の量では到底できない芸当であった。
つまり、おそらくは既に前後の道を火の手に囲まれたこのとき、生きて外へ出る術を帆足は持たなかったのだ。

そして、ここにももうすぐ火が回る。あの家に生まれ、窓からこぼれ落ち、走り抜けるように闇を生きた、
その間ずっとこの世にいてもいなくてもいい存在だった自分が、人生の最後に随分な大仕事をした。帆足は満足感からまた薄い笑みをうかべた、もはや思い残すことはない。
…デブ猫はうまく逃げおおせただろうか。次に爆発音がしたら、それが成功の合図だ。思い残すことはないが…、できることなら、それを聞き届けて死にたい。革命の始まりを告げる号砲を。
帆足は目を閉じて、漠然としたイメージの中の何かの神にそれを祈った。数百人を今まさに焼き殺し、自身も自殺を図りながら…、身勝手にも彼は、見ず知らずの神に自分の願いを聞かせようとしていたのだ。しかも煙草を咥えたままで。

その不遜な願いはやはり、天に通じることはなかった。そのかわり、数刻ののち…。


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