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「それは警告か、それとも、」
どうにか交渉の余地を求め、アレックスは食い下がろうとした。しかし。
「…」
梵はそれ以上何も言わなかった。そして地面に衝いていた錫杖をやおら振りかざすと、シャン、と研ぎ澄まされた金属音を立て、
その先端で、前方、まっすぐ、少し下を指し示した…、
すると、アレックスの足元の土が、突然、抉られるように吹き飛んだ!
「うわっ!」
アレックスはすんでのところで飛び退き、それをかわしたが…、まさにアレックスの立っていた、そのすぐ前のところだった。もちろん意図して外したのだとアレックスは即座に理解した、それと同時に、交渉の決裂も理解した。
その上での、この場から消えろという意味の実力行使だ。二度目はない。次は殺される…!
足元に転がる銃を拾わず、2、3歩後ずさったのち、アレックスは梵に背を向けた。そして一目散に走り去った、その背中を梵は追わなかった。
スラィリーマスターは殺しを好まない。そして深追いをしてこない。これらの点で幹英の読みは正しかった。彼は優秀な幕僚である。
しかし広島自衛隊の敵でないかどうかは…、ひとえに三次の地下壕を諦めるか否か、つまりはこれからアレックスの報告を受けるであろうブラウンの、今後の裁定に任されるところとなった。
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