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その夜、突如、爆発は起こった。時を同じくして施設内に突如吹き荒れた爆風に煽られ、常識では考えられない速度で火の手がまわり、文字通りまたたく間に、監獄は業火に包まれた。
鎮火には実に丸二日を要し、焼け跡は出火元もわからないほどに、何もかも焼け落ちてしまっていた。
帆足の予想した通り、生きて逃げ延びたものはほとんどなかった。元々出口に近いところにいた職員がどうにか数名。残りの大多数と、囚人はみな焼け死んだ。
ほとんどの遺骨がDNA鑑定も困難なほどに焼けてしまい、この世に残ったのは灰だけだった。
一度目の爆音ののち火災が発生し、その直後に外門で二度目の爆発があったことから、何者かがこの二度の爆発を起こして逃げたことは、誰にも予想がついた。
そのため当局は何度も現場の検証を重ねたが…、帆足和幸、大沼幸二の両名がこの未曾有の火災を計画的に引き起こし、そのうえ生きて逃げ延びたという事実まで辿り着くことは終にできなかった。
当局は大沼の能力を正確に把握していなかったのだ。火が出せることについては記載されていたが、爆発が起こせることまでは誰も知らなかった。
それでも、火の出る能力者は珍しいから、大沼は早い段階で容疑者リストには載った。しかも大沼の収監されていた独房の壁は崩れていた。嫌疑がかかるには充分だ。
しかし火災の激しさを物語るように、崩壊していた壁はそこだけではなかった。しかも大沼と帆足の房には帆足の偽装工作によって二人分の遺骨が残されていた。
この事実によって、もしかしたら逃げ延びているかもしれない彼らに対する捜査の初動が遅れた。特殊警察が動いた頃には、彼らはすっかり身を隠してしまっていた。
行方不明者リストに載った彼らは、2年の潜伏生活ののち戸籍を失った。晴れて、死んだことになったのだ。社会の裏側で反政府活動を繰り広げるにはますます好都合だった。
ちなみに勇者こと青木勇人は、この期間に一時期彼らを匿ったため、のちに政府に追われる身となり、その縁で所沢解放戦線に加わっている。
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