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「その後、孝市法師は歩けないでいる娘を抱きかかえ、そのまま娘の家まで送り届けました。
雨に濡れてしまった着物を替え、火にあたりながら事情を聞けば…、娘は名をかな子と云い、先月、絵師の父親を、恐らくは先程のスラィリーに襲われて亡くしたばかりで、今はその家にひとり暮らし、
そして、村はずれのお堂に旅の僧が来ていると耳にし、食料と、わずかな蓄えから施しをもって、父親の供養を頼もうと、訪ねてきたということでした。
丁重に仇討ちの礼を述べたのち…、『きっと父が、法師さまをここへお連れしてくれたのです』、かな子はそう言って気丈に笑いましたが…、
晩秋のつめたい雨に打たれてしまったためか、また別の理由からか…、その身体はかすかに震えていました。
あわれに思った孝市法師は、傍へ寄り、かな子をその腕に抱き寄せました」
「はあ」
「果たして、かな子は抵抗しませんでした。『ああ、法師さま…、』それだけ言うと、かな子は細い体を孝市法師の厚い胸へ預けるように寄りかかりました」
「…」
「元々かな子は村でも評判の別嬪でした、加えて囲炉裏の揺れる炎に照らされて蔭るその表情はことさら、くちびるは牡丹、頬は白桃、潤んだ瞳は宝石のようでした。
どのくらい、そうしていたでしょう、冷えていた身体がやがて熱を持ち、薄い着物越しに柔らかな体温が伝わります…、そして着物の袷をそっと撫ぜ、やがてその中へと指を滑り込ませると、かな子は」
「……いや…っ、あのですね、」
「ぴくん、とわずかに身体を強張らせながらも、微かに喉を鳴らし、ごく小さく息を吐いて…、瞳を閉じ、そして」
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