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「…ところで、ご住職。お聞きしたいことがあります」

しばらく続いた沈黙を破り、森野が尋ねた。

「ええ、何なりと」
「ここには…、何があるのですか」

随分漠然とした問いではあるが、倉にはその意味するところがわかった。つまり、永川が森野をここへ連れてきたのはなぜか、という質問だ。
永川が自分を認めているからこそ、ここへ連れてきたのだろうと倉は言った。
しかし、それが何の目的なのか、永川は事前に何も教えてくれなかったので、森野はずっと気になっていたのだ。

「…ここが何の寺かは、ご存知ですか」
「承知しています。スラィリー折伏術の、総本山と」
「ああ、それなら話は早い。ここにはご本尊のお不動さまのほかに、その術の開祖をお祀りしていましてね」

倉は机に手をついて、よっこらしょ、と立ち上がると、歩を進めて襖を開け、振り返って手招きした。

「ついていらっしゃい」

畳の上にヨダレを垂らして眠っているマサユキを放置してこの場を離れることに森野は少し戸惑ったが…、倉がそうするのだから、多分、問題ないのだろう。
そう考え、マサユキを見ないふりをして、森野はその投げ打たれた足元を跨ぎ、倉のあとへ続いた。

「この寺がスラィリー折伏術を伝えるようになったのは、さほど古い話ではありませんでね。明治の中ごろのことです。
 それまではごくありふれた、どこにでもある小さな寺…、いえ、寺と呼ぶのも適切でないくらいの、小さなお堂でした」

廊下に出て、本堂から離れ、寺の奥のほうへ…、歩きながら倉は淡々と語りだす。


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