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いっぽう、広島。
師匠の食事を急かしてどうにか食卓を脱出した永川は、後片付けを山崎に託し、
その山崎の愛車である自転車「走れヨシヒコ」号の荷台に森野を座らせ、一路、坂を下っていた。

「うわ、おいちょっと、永川、ちょっと、もうちょっと丁寧に運転しろよ」
「急いでるんだ、我慢してくれ。重いからどうしてもハンドルを取られる」

いわゆるママチャリと呼ばれる一般的なこの自転車がどのくらいの荷重に耐えるのか、などという知識を森野は持ち合わせないが、
自分と永川二人を足せば、おそらく制限値を超えるであろうことは容易に想像できる。
そのうえきちんとメンテナンスされていないタイヤはやや空気が抜けていて、圧倒的な重量を受けて潰れている。

「大体、どこへ向かっ、うわっち」
「黙ってろ。舌噛むぞ」
「……」

無言になった自転車はそのまま快調に夜の中をかっ飛ばし、十数分後に停車した。

「…ここは…、」

どこか、と尋ねるまでもない。森野は目の前の門と、そして奥の建物を見てすぐに、みずからそれを理解した。

「寺だな」
「そうだな」

門に掲げられた立派な看板には、『梵倉寺』の名が刻まれている。


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