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永川の主張するところは、様々の事情を切り捨てて端的にまとめるなら、自分ではなにもできない子供のよく口にする、「自分のことを自分で決めたい」というアレとさして変わらない。
しかし永川はもう子供ではない、ぐだぐだ言っていないで本気でやろうと思えば、なんでもできるのではないか…、と森野は思った。
「…どうしてもやりたいことがあるんなら、出ていってしまえばいいのに。一度きりの人生だし…、それに案外、どうにかなるかもしれんぞ」
「そんなことが平気でできる奴が、スラィリーマスターなんかになるんだ」
それまでぼんやりと空を見上げていた永川が、キッと森野を睨みつけた。
「マスターって付く奴はどっか似てるとこがあるみたいだな?あんたも、仕事ほったらかして、出てきたんだろ」
「違う」
「違うのかよ」
「いや、違うってこともないが…」
咄嗟に違うと口走ったものの、再度追及され、森野は勢いを失くした。
言われたとおりだ、持ち場はほったらかして、弟子も人に預けてきた。異論ない。
「…だが、その、スラィリーマスターになった彼と、俺とは、決定的に違う」
「どこが違う?」
「俺がいたって、いなくたって、そんな変わらんよ」
「無責任な。大尉って言ったじゃないか。偉いんだろ、あんた」
「…上官が俺を買ってくれてるから、そんな肩書きがついてるだけだ。それも、なんで買われてるのか全然わからない。
ただ、他の誰かの抜けたところに配置されて、上手くいったことが何度か続いて、それが評価されたんだとは思うが…、
それって俺の功績じゃないと思うんだ。前任者がちゃんとしてたからで、別に誰がやっても上手くいったんだと思うんだよ。
俺だからできることとか、他の人にはないものとか、何もないんだ。
それでも、上官が評価してくれること自体は嬉しかった、でも、ちょっと前にね、聞いちまったんだよな」
永川のきつい視線から目を逸らし、森野は地面をみつめた。
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