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「ま、いいんだよ、急がないとダメってことがわかったんだから、急げばいいのさ」

永川はまた人懐こい笑顔を見せてそう言った。前夜、他人とは組まないと、そうピシャリと言い放った時のあの表情とは別人のようだ。
出会い頭のあの発言が彼の本心とすれば、今の永川は森野に対して相当の配慮を見せていることになる。

「本当に、申し訳ない。俺のせいで予定が狂ってしまって」
「時間があったほうが準備は万端にできるだろうが、それは相手も同じことだからな。
 英心にあんたの存在を知られないうちに仕掛けられれば、そのぶん戦いは有利になる、かもしれない、善は急げだろ」
「……」
「そんな顔すんなよ。別にあんたのために一生懸命フォローしてるわけじゃない。
 何度も言ってるが、俺ひとりじゃあいつに対抗できない。運がよくても刺し違えるくらいが精々だ。それじゃ意味ないんだよ。
 いいか、今あんたが身柄を拘束されるようなことがあれば、それでマスター討伐は失敗だ。
 そうなったら次の機会はいつになるかわからないんだよ。そもそも次の機会があるのかどうかも。
 あんただけじゃない、俺の人生も懸かってる。国許へ帰った後であんたがどうなるのか、そもそも帰れるのか俺は知ったこっちゃないが、ここにいる以上は、最善を尽くしてもらうぞ」
「お前の、人生が?」

永川の口から出た意外な言葉に、森野は思わず聞き返す。

「…英心を捕まえてこないことには、俺の人生は始まらない。
 スラィリーが人里に降りてこないように牽制するのも、増えすぎたスラィリーを始末するのも、全部俺一人に押し付けやがって、
挙句、どういうつもりか知らないが、自分はスラィリーマスターだなんて。ふざけてると思わないか」


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