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永川の言っていることが理解できず、森野は大きな目をぱちくりした。
逃がしたことには違いないのに、気にしなくていいなんて言うから、一体どんなヘタな慰めを言ってくれるのかと思ったら…、なんだって、鶏じゃないとか言うならまだともかく、鳥じゃないだと…?
「そんなら、一体」
「…こんなこと言って、信じてもらえるかわからないから黙っときたかったんだけどさ、」
前置きをして、永川は頭を掻いた。
「狐だよ、稲荷様の。ここがまだ神社だったころからいるわけだから、当然それなりにトシもくってる、立派な化け狐だ。
基本的に悪気はないんだが…、そのかわり役にも立たないし、悪戯が過ぎるっていうか、ジョークがきつくて困る」
稲荷様の狐。それってつまり…、神様の使い、ってことじゃないのか、と森野は考えた。
自身がドアラマスターゆえに人外の知的生物に慣れており、また軍の基地でも喋る犬やら龍の子供やらを日常的に目にしている森野であるから、
狐が化けて悪戯していること自体には、永川が懸念したほど驚きはしなかったが…、
神や精霊、妖怪やらの類にはさすがに触れたことがなく、当然、存在をことさら意識したこともない。
「そんなものを鍋へブチ込んでやるだなんて…、お前」
罰当たりだな、と森野は言おうとしたが、それを遮り、永川は吐き捨てるように言った。
「冗談に決まってるだろ。どうせ臭くて食えたもんじゃない」
「……」
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