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「いいよ。聞こえてきてないんなら、とりあえずそれでいい」
「え、何でだよ」

果たして青木がこの可能性を思いつかなかったのか、それとも現実性が薄いと考え、あえて選択肢から外したのかはわからない。
しかし、森野本人と直接会い、いくつも言葉を交わした永川は、この推測が正しいことを直感的に確信した。
あの森野の澄んだ眼差し、何もかも悟り、決意したような言動のひとつひとつを直接見聞きしていれば、あるいは、青木もそう考えるに至ったかもしれない。

「問いあわすとなったら面倒だし、もう一度本人に聞くから。あんたにばっか手間かけさすのも悪いしな」
「何だそれ、急に。べつにそんな大した手間じゃねえよ、ちょっとメールみたいなの打つだけだ。大体キミ、今まで俺にそんな配慮してくれた事ないじゃん」

とにもかくにも、「ドアラ」というキーワードを軽々しく口走らなかったことに、永川は心から安堵した。
著名なドアラマスターの数は世の中に決して多くなく、数えるに精々片手で足りる程度。そのうちひとりは芸人だ。うっかり「軍人」「ドアラ」の二項が揃おうものなら、あとはインターネットさえあれば、誰でも労せず森野の名に辿りつく。
森野がここにいることが名古屋へ知れれば、おそらく明日には捜索が始まるだろう。マーティの秘密部隊を除く大部分が戦闘能力を持たない、名前だけの軍隊とはいえ、山狩りくらいなら広島自衛隊でもできる。

…冗談じゃない。あれは俺の初めての天佑、意欲と実力とを兼ね備えた、千載一遇の相棒だ。
この機会を逃せばおそらく、一生、スラィリーマスター梵英心を取り押さえることなど叶わないだろう。手放してなるものか。


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