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「…思ったより、色々…、やってんだな、あんた」
「まあ、一通りやってることはやってるけど、俺のメインの仕事は地元マフィアとの取引だったから、恐ろしいことはあんまりしてないよ。
所沢には高山組ってデカイのがあんだけど、そこにドラッグとか銃器を流すの。丹精込めて育てたマリファナの樹脂が高く売れると、そりゃもう嬉しくってさ。飛んで帰って、みんなで飲んだりしたね、マリファナ焚いてね」
日常と非日常が背中合わせになったようなその話には妙なリアリティがあり…、山崎はもちろんのこと、スラィリーハンターとしてそれなりに死と隣り合わせている永川さえも黙らせるには充分だ。
「でも、旗揚げから間もないころは、俺も本当になんでもやったね。あのころは善悪とかも何も考えなかった。まあ、犯罪だって事はそりゃわかってたよ、それでも、とにかく独裁政権を倒すためなら何やってもいいって思ってたんでさ」
「…けど、そないな人が、なんで広島にいてるの?ていうか、なんで捕まらへんの?」
山崎が口にしたその質問は、永川もこれまで気になりつつ…、しかし尋ねないままにしていたものだった。
そうしていた理由は簡単で、永川自身、なぜお前はスラィリーハンターをしているのか、という質問をされるのがあまり好きではないからだ。
そんなものは成り行きで、好きでやっているわけではない。これより他の可能性はすべて奪われたから、仕方なくやっているだけのことである。
加えて、青木は元テロリストだし、広島へ来たのもきっとろくな理由じゃない…、そう思えたから、なんとなく、そのろくでもない理由を殊更に尋ねることは面倒に思われたのだ。
しかし、山崎はそういうことを考えずに、浮かんだ疑問はとりあえず口にする男である。
ああ、それ聞いちまったか、という億劫な気持ちと、自分では恐らく一生できないであろう質問を他人がしてくれたという幸運な気持ちが半々になったような気分で、永川は青木の顔を見た。
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