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「いま検査に回しているから、少し待ってね。それとも、急ぐかい?」

事務所に戻って永川山崎にソファを勧めると、青木は何よりも先にまず、そう言った。

「いや、まだ時間はあるよ。大丈夫」
「じゃあ、コーヒーでも飲んでいきな」

永川の返事を聞いて青木は笑顔を見せ、ミルを使って豆を挽き始める。コーヒーの香りがそこはかとなく辺りに漂う。
…急ぐと言ったところで別に、検査が手早くなったり査定がすぐに出たりするわけではない。急ぐかい、というのは、もし今日のところはすぐ帰りたいのなら、後日査定結果を報告するから、それから折衝してお互いの取り分を決めましょうという意味である。
その日の仕事がその日のうちに片付かないのは、永川はあまり好きではない。そして、仕事のあとに青木がいれてくれるコーヒーは好きだ。
となれば…、山崎を借りたまま師匠を待たせているとはいえ、永川としては、急いで帰る理由はない。

「そうさせて貰うよ」

永川がそう返事するのを聞いて、山崎はソファに腰を下ろそうとしたが、ふと何か気づいたようにその動きを止め、じっとソファを注視した。
先程、出発前には気づかなかったが、改めてみると、ソファは革張りで、明らかに高級そうな雰囲気を漂わせている。
しかるに、自分が土だらけの埃だらけなことを思い出して、山崎は座るのを躊躇したが…、同じく埃っぽい永川が遠慮なくどっかりと座ったのと、青木がジェスチャーで再度着席するよう勧めるのとで、ようやく、少し浅めに腰を下ろした。

「こんな時間に帰れて良かった良かった。一時は持久戦も覚悟したけど、ナーにしては思い切った決断だったね。英断だよ」


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