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…森野のけたたましい叫び声、ならびに鶏たちの騒ぐ声は、ちょうど部屋へ引っ込んだばかりの前田の耳にも届いた。
「ふふん、騒々しいの。まぁ、誰もが通る道じゃけ。…おい、浩司!茶ーくれんか!」
鶏に襲われる森野を想像し、一人、笑みを浮かべながら前田は山崎を呼んだ。しかし、当然返事はない。
「そうじゃ、出払っとるんじゃったの…」
仕方ない、と吐き捨てるようにこぼしながら、机に手をついて前田は立ち上がろうとした。そのとき。
灰色に輝く見事な毛つやの狐が一匹、どこからともなくあらわれ…、前足を揃えて、机の対面に座った。
「お呼びになりましたかね」
「呼んどらん」
狐の問いかけに、前田は素っ気無く答えた。すると…、
「あら、つれない。茶を入れてきましょうか、と言ってるのに」
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