069
…どちらかが一撃当てれば勝負あり、こちらに道具があるかわり制限時間内に勝負がつかなければ向こうの勝ち。
それだけなら、たしかに公平な条件にも聞こえる。
しかし布団たたきはリーチが1メートル弱ある上に、先端は布団を効率よく叩けるように広がった形状をしている。
相手は徒手なのだから、これなら間合いが詰まりさえすれば、ほぼ確実に先制できるだろう。
と、いうことは…。
「ほれ、用意はええかの」
布団たたきを手に考え事をしている森野に、前田が声をかける。はっとして森野が前を向くと、山崎は4歩ほど前方、すでに両手を胸の前に合掌し、両足首を交互に回しながら森野を待っている。
「ナー、時計の準備は」
「大丈夫です」
鎖のついた懐中時計を手に、永川が返事をした。その隣にドアラがワクワク顔で控えている。
「ほんなら、ええか」
前田のひと声で、ぴん、と道場内の空気が張り詰めるのを森野は感じた。気力が体内から満ちるように背筋が伸びる。
「よろしゅう、お願いします」
山崎が合掌したままペコリと頭を下げた。
「よろしく」
応じて、森野も礼をとる。
数秒の間。そして。
「始め」
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