033
前田は渋い顔をした。永川ほどの実力があってもスラィリーマスターには肩を並べるべくもないのかという、朝の森野の想像が正しかったことを、その表情が如実に伝える。
「…しかし、そう言い出すからには、なにか勝算はあるんか」
「それなんですが、こちらの、モ…、その、えと、ドアラマスターの、モ………、な、名古屋さんと組めば、あるいはと思いまして」
ああ、またやっちまった、俺ってだめな奴…、と永川は思った。
最早森野の名を訂正できるのは自分しかいない、そのことを永川は重々承知していた、
しかし師匠の興味は最早そんなところになく、いかにしてスラィリーマスターを倒す気かとその鋭い視線を自分の眉間へ容赦なく向けてくるものだから、
そこで話の腰を折って名を訂正するのも気が引けて、遂に名古屋と呼んでしまったのだ。
ちらりと右を見ると、案の定森野は微妙にうつむいている。その横顔がいたたまれなくてさらに向こうのドアラを見れば、マスターである森野の緊張感が伝わっているのか、きちんと姿勢を正して大人しく座っている。
いや、俺のせいじゃないだろ、間違えたのはやまちゃんだし、大体自分で訂正できないのに俺に期待してもらっても困るもん…、
無意識のうちに自分自身に対する言い訳を考えると同時に永川は、たとえ必要に迫られてもこれしきの話の腰が折れない自分を、とても腹立たしく思うのだった。
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